シモン(2)

シモンは小腹が空いたので、ふらっとカフェに入った。テラスに並ぶテーブルは、どれも磨きあげられていていた。彼の好きな街の灯が、さかさまに吸い込まれていく闇…自分の中のアペイロンのようだ、と彼はおもう。どうして、普通に夜空を見てもこんなではないのに、テーブルに映るとこんなふうなんだろう。


心の中にアペイロンを持てなくては、幾何学はできない。当時隆盛を極めていたヒゲトカゲ団の団員たちが、幾何学も記号列の変換に過ぎないと述べていた。しかし、シモンにヒゲトカゲ団の話をすると、必ず「彼らは幾何学のことを何も理解していない」と、不機嫌そうに答えた。


このとき彼は小腹は空いていたが不機嫌ではなかった。アペイロンとエプロンって似てるかも、と考えていた。語源はぜーんぜん違いそうだけど。