古今和歌集

どの部分をとっても、ミクロな配列が、凝ったつくりになっている。

ちょっと前から別れっぽい歌がならんでいる一節。秋ですから。

715 蝉のこゑきけばかなしな 夏衣うすくや人のならんと思へば
716 うつせみの世の人事のしげければ 忘れぬもののかれぬべらなり
717 あかでこそ思はんなかは離れなめ そをだに後の忘れがたみに
718 忘れなんと思ふ心のつくからに ありしよりけにまづぞ恋しき
719 忘れなん 我をうらむな 郭公人のあきにはあはんともせず
720 絶えず行く飛鳥の川のよどみなば 心あるとや人のおもはん
721 淀川のよどむと人は見るらめど 流れてふかき心あるものを
722 そこひなきふちやは騒ぐ 山河のあさきせにこそあだ浪はたて
723 紅のはつ花ぞめの 色ふかく思ひしこころ われわすれめや
724 陸奥のしのぶもぢずり たれゆゑに乱れんと思ふ我ならなくに

715

この季節になると、夏衣がもう薄く感じられる。あの人もあきが来て薄くなるんだろうな。


716

「うつせみの」は枕詞。715とせみつながり。世間の噂が多いので、忘れはしないけれども足が遠のいてしまいそうだ。


717

では、飽きがこなかったら。>715


それこそ別れてしまうのがよい。せめてその想い出を後に残せる。


718

想い出。>717


忘れてしまおうと思うがはやいか、当時以上に、とにかく恋しい。


719

忘れてしまおう ほととぎすが秋には人に飽きられないよう山へ帰ってしまうように。会おうともしない。


720

でも、絶えず通っていた足をとめてしまったら、浮気を疑われてしまうだろうか。


721

足がとまったと見られようが、流れる深い想いがあるのに。


722

浅いからいろいろ言うのだ。私は深い。


723

深く思った気持ちを、忘れるだろうか(忘れられないんじゃないか)。


724

723とは染めものつながり。乱れてしまった。


という具合に、ほとんどの歌が直前の歌と響いている上に、通してみると内容にも流れがある。

あきらめようとしたり、未練を感じたり、忙しいことである。



恋愛関係に色という言葉を使うのは、心が染まるからだと思われる。